月二回ぐらいこういう記事書けるようがんばります。
何を学ぶかに関わらず、研究の始めは先行研究の発掘と分析だ。
学問は一人でするものではなく、連続した営みだとよく言われる。
自分の論文をよりよくするためには、研究対象がどのように研究され語られてきたのかを学び、その上で自身の新規性を証明していくのが一番の近道だ。
しかし先人たちの研究成果と自身の研究とを「適切」に接続することは予想以上に難しい。
知らず知らずのうちに自分の主張に都合の良いような理論だけを援用したり、歪んで解釈してしまう場合が(特に社会科学の分野は)ある。
本来であれば学士や修士の時に過去の名著たちにじっくりと向き合い、自身の問題意識との繋がりを見つけるべきだが、それを一人だけで行うのは困難な道のりである。
この本が入門書として優れている点は、名著たちや著者自身の繋がりを重視しているところだ。
本書では社会学で使われる用語やいわゆる古典と呼ばれるような理論が特に説明もなく記載され、メディア論、社会学を学ぶ最初の一冊だと思い読み始めた人は読みとくのにかなり苦労するのではないだろうか。
既に読者が名著たちの概要や社会学でよく使われる理論、用語を理解していることが前提に作られているのだと思う。
一方で名著たちが書かれた時代背景やその後理論がどのように発展したか、そして著者の研究にどのような影響を与えたのかを明瞭かつわかりやすく描いている。
冒頭で触れられている通り、紹介順は著者の心の書架に乗っ取って整理されている。
順番の意図を理解するうちに、自身の問題意識がどのような知識に連なるのかを理解することができるだろう。
本著は社会学を学びメディア論を研究する人にとっての入門書なのである。
各章の冒頭は冒頭に名著にまつわる思い出から始まることが多い。
著者がなぜこの本と出会い読んだのかや当時の状況なども併せて知ることになる。
名著同士の繋がりだけではなく、紹介された名著によって著者の研究がどのように深められたかも体感していく。
それは理論だけを学ぶだけではなく、自分が感じた感情や環境、他の研究者との交流が学問を行うという行為にとって重要だということを、自身の研究を例にして伝えたかったからだろう。
メディア論という学問の営みを体感し、研究を始めるための入門書として非常に優れた一冊だった。