幾原監督は本作品のクラウドファンディングを行う際にコメントを残しています。
あの日、あの時、僕たちの日常は大きく変わりました。*1
劇場作品として、ピングドラムは僕らの前に再び現れました。
幸いにも10年という歳月はこの物語の本質を変えることはありませんでした。
コミカルな描写、そして過酷な運命に立ち向かう少年少女を表現する独特な演出は色褪せることはありません。
既にTV版を見ている僕としてはどうしても間伸びしたと感じてしまうところもありましたが、今まで見たことのない人にとってはそうではないでしょう。
固定ファンだけではなく、多くの人に開かれた作品になっていると思います。
しかし10年という歳月は世界を変えるには十分な時間でした。
コミュニティ間での溝は深まり、対立は激しくなっています。
一方で個人の視点ではこれまで存在した学校や国家のような繋がりは弱くなっておりホッブズの言う「万人に対する闘争」の状態に近づいているとも言えます。
本作品は「家族」という最小のコミュニティがメインテーマになっています。
それを再び始めることでもう一度作品を見てもらいたいだけではなく10年前とは異なる意味付けを行ってほしいのではないでしょうか。
TV版では「家族」を救うため、兄弟たちは「物語の外」の存在となりました。
そして劇場版は終わりからもう一度始まります。
単なる総集編ではなく「世界」と「不幸」、そして「家族」とで巡る物語の結末を今再び描くのか。
物語を再利用し、現代の問題をどう映し出すのか。
現代に解き放たれている黒うさぎたちはどうすれば封じることができるのか。
RE:cycleにはそんな意味がこめられていると感じました。
10年という歳月は僕たちを変えるにも十分な時間でした。
当時の視聴者たちは「何者かになれた」人もいれば未だに「何者にもなれなかった」人もいるでしょう。
生存戦略、しましょうか
もう一度、ピングドラムという作品を我々の中で再定義する時間がやってきました。